忍びがいっぱい

忍びがいっぱい

オンラインカウンセリングのカナムーンです。

85才の父が1年半前に敗血症の手術をした時のお話です。

術後はせん妄が起こる可能性があるので、錯乱状態に陥ることによる転倒や、治療に必要な点滴の自己抜去の危険性がある場合、もしかしたら夜間に身体拘束をするかもしれないと看護師さんから説明されましたが、父の尊厳を守るために、できる限り拘束はしないようにお願いしました。その夜、看護師さんからせん妄が出て興奮しているため、身体拘束してよいかと電話があり、「なるべく短い時間でお願いします。日中は勤務の調整をして父と一緒にいるようにしますので、夜間だけお願いします」と伝えました。

せん妄とは、身体疾患や薬の影響で、一時的に意識障害や認知機能の低下が起こることを指します。入院や手術、薬、低血糖、脱水、栄養失調、外傷など、体や心に強いストレスがかかるとせん妄を発症しやすくなります。症状は、周囲の状況がわからなくなる、幻覚、妄想などで、せん妄を発症すると予後が悪くなる可能性があります。

翌朝、父の病室に行ってみると、「忍びが床からも天井からも出てくるんだ。ほら、今も出てきた。」と目をキョロキョロさせながら興奮して話してくれました。「へぇ~、忍びがいるの?」と答えると、「見えないのか?」と驚かれました。「私も忍びが見たいけど、残念ながら私には見えないわ。お父さんにしか見えないみたいよ」と言うと、不思議そうに私の顔をジロジロ見ていました。不謹慎ですが、(おもしろい!)と思いました。

そこから“忍び劇場”の始まりです。病室のいろいろなところから忍びが登場します。床から、壁から、天井から、ベッドの下から、クローゼットから、大きい忍び、小さい忍び、そうこうするうちに、壁に大きなテレビが登場して、そこに映し出されているものの説明、テレビの調子が悪くなり、小さい忍びが修理を始め、それが上手くいかないようで電器屋を呼んできてと頼まれたり・・・。めまぐるしく展開する“忍び劇場を”「あら、そう」「へぇ~、おもしろいな~」と言いながら、巡回してくる看護師さんにも共有してもらいながら、すっかり楽しんで聞いていました。

その夜は少し落ち着いたようで、身体拘束をされることはなかったようです。せん妄の予防法の中に、周りの状況を常に説明する、家族が積極的に話しかけるという方法があるのですが、まあその実践といったところでしょうか。

一応、私はこころのケアの専門家ですので、忍びが見えている父の真実に数日間付き合いましたが、もしかしたら見えない私のほうがおかしいのかもしれないな~なんて思ったりして。そうこうするうちに、せん妄はおさまり、忍びは消え、それから父は忍びを見ることはなくなりました。私としては、忍びがいなくなったのは、何だか残念なような気がします(笑)。

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