智慧の冒険

智慧の冒険

オンラインカウンセリングのカナムーンです。

この写真は、我が家の玄関に飾られている難波田龍起(ナンバタタツオキ)さんの絵画で、25年ほど前に成城の緑陰館ギャラリーで購入したものです。緑蔭館ギャラリーは、民俗学者の柳田國男さんが書斎としていた洋館で、ご長男の奥様が「緑蔭小舎」として経営していた画廊を縮小したもので、私は3年間ほど奥様のお手伝いをしていました。「緑蔭小舎」では舟越保武さん、山口長男さん、松田松雄さんなどの錚々たる芸術家の個展が開かれていましたから、奥様について行くとすごい方たちに出会うという経験をさせていただきました。

さて、柳田國男さんと言えば民俗学の大家ですが、その著作「ウソと子供」の中で、「人生を明るく面白くするためには、ウソを欠くべからざるものとさえ考えている者が昔は多かった」と述べています。例えば、豆腐屋へ油揚げを買いに行った末っ子が、帰りにその一方を食べてしまい、母親にはネズミにかじられたと言い訳をします。すると母親は快く幼児にだまされて、彼の幼気(イタイケ)な最初の智慧の冒険を成功させてやったというエピソードが紹介されています。そして、この最初の智慧の冒険というのは、子どもが発達の過程で養っていく大切な空想力であり、やがては社会を構成していくアイデアにつながっていきます。

「ウソをついてはいけません」と言われて子どもは育っていきます。確かに他者を傷つけるようなウソはいけないし、いつもいつもウソばかりついていると人から信用されなくなります。一方で、私たちが生活していく上で、自分が思っていることとは違うことを言ったり行動したりしなければならないことも少なからずありますし、それはある意味優しさだったりすることもあります。また、ウソをつくことは空想力やユーモアなどを伴う一つの能力で、昔話や落語などでもわかるように決して悪いだけのものではないのだと思います。

寛容さが失われている現在では、車のブレーキに遊びが必要なように、ウソをつくことで得られる遊びが人生のスパイスになることもあるのではないかと思っています。ものごとの善悪だけでは測れないことが世の中にはたくさんあるのではないでしょうか。また、利益を追い続ける社会の中ではムダと思われることを避けようとしますが、一見するとムダと言われてしまうものの中に、実は新しい発見や有益になり得る知識が存在することもあります。

カウンセリングをしていると、ウソやムダなどの敬遠されてしまうようなことの中に真実が隠されていることがあります。そこに愛や優しさを感じることもありますので、人生を明るく楽しいものにするために、それらを面白がることも大人としての余裕なのかもしれませんね。今一度、ウソやムダを見直してみることも必要なことかもしれないなあと思っています。

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